平成１９年（2007）１０月に、井上ひさしが第二の故郷
と語った市川市文化会館大ホール（千葉県）で開催された
こまつ座第83回公演「円生と志ん生」のチラシ額縁である。
井上の逝去３年前、ゆかりの地での凱旋公演の証である。
また、このチラシも秀逸だ！えも言われぬユーモアと、
ほのぼのとしたタッチのイラストレーター・和田誠（1936
～2019）が手がけた、このチラシと絵も実に味わい深い。
この１０月７日（令和４年）で没後３年となる。和田は今
から４０年以上前に『落語横車』（講談社）から出版し、
かつては『和田誠寄席』を東京・新宿の紀伊国屋ホー
ルで開催し好評を博した。古今亭志ん朝や柳家小三
治、入船亭扇橋 春風亭小朝 三遊亭楽太郎らが熱
演した記憶が脳裏に刻まれている・・・。
【地元・市川市民の御託！】
さて、話を市川凱旋公演の意味と意義に話を戻そう。井
上ひさしは、晩年鎌倉で在住していたが、それ以前の２０
年間は、永井荷風ゆかりの市川に引っ越し作家活動に専念
していた。御存じ、ＮＨＫ大長編劇「ひょっこりひょうた
ん島」を書き上げたのも市川の地。昭和４７年（1972）、
江戸戯作文学を愛読した荷風に影響されて、小説『手鎖心
中』を発表し、見事、第67回直木賞を受賞した。戯作者に
なりたかった若旦那を描いた名作である。それ以後、笑い
と風刺のなかに、人間の悲喜こもごもを投影させる作風は
生涯一貫していた・・・。
井上の小説デビュー作は、大阪万博があった昭和４５年
の『ブンとフン』が皮切り。三作目が直木賞を受賞作『手
鎖心中』、以後、映画化された『青葉繁れる』『四十一番
の少年』『おれたちと大砲』『合牢者』『ドン松五郎の生
活』『浅草鳥越あずま床』『日本亭主図鑑』『新東海道五
十三次』『さそりたち』『戯作者銘々伝』『新釈遠野物語』
『他人の血』『喜劇役者たち』『下駄の上の卵』『吉里吉
里人』『犯罪調書』『不忠臣蔵』『腹鼓記』『馬喰八十八
伝』『四千万歩の男』など、生涯に書き上げた５２作品の
のうち約５分４作品を市川で手がけている。
井上の作家魂は、作品第一主義で金儲けに執着していな
い。講演を聞いた時に、一番印象的だったのは「『吉里吉
里人』の大ベストセラーで入った印税１億９千万円のうち、
約半分を『不忠臣蔵』を書き上げるために、ありとあらゆ
る史料購入につぎ込んだ」という史料魔的な執念だ。私が
かつて所属していた、新聞社の大先輩の司馬遼太郎の仕事
ぶりを彷彿させる・・・。
【追伸、役者を育てられる座付作家】
さらに、昭和５９年（1984）には、生まれ故郷の山形県
の名をちなんだ劇団「こまつ座」を立ち上げた。自らが座
付作家となり、旗揚げ公演の「頭痛肩こり樋口一葉」は市
川市市民会館で開催された。
昭和４７年に、岸田國士戯曲賞と芸術選奨新人賞を受賞
した『道元の冒険』をはじめ、『頭痛肩こり樋口一葉』
『表裏源内蛙合戦』『珍訳聖書』『天保十二年のシェイク
スピア』などの初期作品。『しみじみ日本・乃木大将』や
『小林一茶』の受賞作、『吾輩は漱石である』『人間合格』
『きらめく星座』『もとの黙阿弥』『シャンハイムーン』
『東京セブンローズ』『太鼓たたいて笛吹いて』などの多
く傑作。『花よりタンゴ』や『泣き虫なまいき石川啄木』
『紙屋町さくらホテル』『箱根強羅ホテル』『国語事件殺
人辞典』『空き缶ユートピア』『黙阿弥オペラ』『わが友
フロイス』などの話題作、そして遺作となった『ムサシ』
を発表した。戯曲の半数以上は市川在住時に手がけたもの
だ。芝居の台本が完成せずに上演をキャンセルしたりとい
ったトラブルもあった。しかし、井上のように納得の行く
まで脚本と対峙し、劇団の赤字を私財を投じて補填した
ことは、ある意味では役者に呻吟時間を与えて育てたこ
とにも繋がった。
昨今のコロナ騒動で、市井の劇団や芝居の役者の多く
が実質的な失業をし、貧困に苛まれた。井上がもし生き
ていたら、彼らに有効な手を差し延べただろう・・・。
【状態と送料に関して】
状態は、保存状態のよい「美品」の部類である。額縁
の貼付写真に証明が反射して、お見苦しい点をお詫びい
たします。発送はネコポスかゆうパケットでよろしけれ
ば、当方が負担サービスいたします。
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